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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)54号 判決 1978年7月18日

控訴人 染野義信

被控訴人 麻布税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 竹本廣一 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四四年二月二八日付をもつて控訴人の昭和四〇年分、四一年分の各所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取消す。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

一  訂正

原判決八枚目表一一行目及び同裏九行目から一〇行目にかけて「<証拠省略>」とあるのを「<証拠省略>」と、同添付別表二の表九、一〇行目「歳費」とあるのを「歳暮」とそれぞれ訂正する。

二  控訴人の主張

仮に本件入学増収研究費及び見学研究費がいずれも給与所得に当るとしても、右各研究費は、すべて研究者である控訴人が、その職務上必要なものとして、研究のため支出したものであるから、その職務に伴う必要経費であることは明らかである。そうだとすれば、結局、控訴人には実質的に所得がなかつたことに帰するのであり、その点を看過してされた本件更正処分は違法である。

三  被控訴人の主張

給与所得の金額は、所得税法第二八条二項及び三項の規定により、その収入金額から給与所得控除額を控除して計算することになつている。したがつて、仮に控訴人が本件入学増収研究費及び見学研究費を研究のために支出していたとしても、給与所得金額の計算の上では、右所定の給与所得控除額の控除以外に必要経費を控除することはできないのであるから、控訴人の主張は失当である。

四  証拠関係

当審において、控訴人代理人は、<証拠省略>を提出し、被控訴人代理人は、右<証拠省略>の成立は知らないと述べた。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補足、訂正するほか、原判決理由説示(原判決九枚目表二行目から同一三枚目表八行目まで)と同一であるから、それをここに引用する。

一  訂正

原判決一一枚目裏一行目の「右給付、」とあるのを「右給付は」と改め、同一二枚目裏一行目の「開催され、」の次に「大学の運営方針、教育、研究の状況について報告が行なわれ、その」を加える。

二  控訴人の当審における主張について

所得税法(昭和四〇年法律第三三号)によれば、給与所得については、実額による必要経費の控除が認められておらず、概算経費控除の意味で一定額の給与所得控除が認められているにとどまるのである。すなわち、同法第二八条二項三項及び同法付則第四条によれば、給与所得の金額はその年中の給与等の収入金額から法定の給与所得控除額を控除した残額とするとされている。したがつて、給与として支給された本件入学増収研究費及び見学研究費が仮に控訴人主張のとおり研究のため費消され実質上必要経費に該当するものであり、かつ、右必要経費の実額が法定の給与所得控除額を超えていたとしても、同控除額を超えて必要経費の実額を給与等の収入金額から控除することはできないものというべきである。

したがつて、本件入学増収研究費及び見学研究費相当額を必要経費として控除しなかつたからといつて、本件更正処分が違法であるということはできない。

よつて、本件各更正処分の取消を求める本訴請求は失当として棄却すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 枡田文郎 斎藤次郎 山田忠治)

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